一穂 ミチ(著)、阿部 文香(ナレーター)
概要
夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。
【2022年 本屋大賞ノミネート】【第165回直木賞候補作】【第9回静岡書店大賞受賞】【キノベス!2022 第4位】
こちらの小説は、聴く本のオーディブルで読了しました。
≫ オーディブル(Audible)(* 聴き書きのため、引用として記載した文字が底本/原本と若干異なるかもしれません。ご了承ください)
6つのお話はそれぞれに惹き込まれるストーリーなのに、どこか怖いという気持ちが先にきてしまい、何度か中断しながら聴き終えました。
ときどき圧迫されるような重苦しい感覚。
どのお話も心が苦しくなるのと同時に、こういう現実もきっと無数に存在していると感じます。
印象に残ったところ
神よ、私にお与えください。
変えられないものを受け入れる落ち着きを。
変えられるものを変えていく勇気を。
その二つを見分ける賢さを。
今日一日を生き、一瞬を楽しみ、
苦しみも平和につながる道だと、受け入れますように。
「式日」というお話の中で登場した、【平安の祈り】というものの一文です。
自死を遂げたある男性の遺品の中に、この祈りを書いたメモ(原文/英語)がありました。
(アルコール依存症の断酒会などで使われるとのこと)
どんな人間も救いを求める
上記の言葉や場面が心に残った理由は。
客観的に見ても誰もが目をそむけたくなるようなひどい行いをしてきた人間でも、根底ではずっと救いを求め続けていた、その矛盾と悲哀を感じずにはいられなかったからです。
この男性は、アルコール中毒で、子供を虐待し家族に暴力をふるうような人物であったにもかかわらず。
人を傷つけ、さまよい続けたあげく、出口も解決策も見つからず人生を終える..。
例えば聖書をはじめとする様々な教えや、個々に何かを信じる気持ちは尊いものです。
同時に、救いとか祈りとはなんだろうと、行き場のない虚しい気持ちにもなります。
{*補足:
「平安の祈り」で調べてみたら、下記が見つかりました。詳細についてはよくわかりませんが、物語中の内容と似ています。
( Wikipedia参照:ニーバーの祈り ) }まとめ
変えられないものを受け入れる落ち着きを。
変えられるものを変えていく勇気を。
生きていると、「報われる」とか「救い」というものがあると感じることもあれば、ないと思うこともあります。
人生は、ずっとその繰り返しなのかも。
それでも。人間として生まれてしまったからには、この世のルールに従いつつ、できることなら楽しんだり幸せを感じられるように日々を生きること。
投げやりなったり傲慢になったりするのでもなく。
ただ、自然の摂理を静かに受け入れて、ほんの少しの諦めと俯瞰の視点を持って。
ときに広くも小さくもある世界を、今日も生きられますように。
★読後エピソード。
6つの物語の読後感は、息苦しさと静寂。
最初の「ネオンテトラ」と最後の「式日」のつながりに胸が締め付けられます。
「魔王の帰還」は、悲しいけれど、逞しさと明るさも感じられる姉のキャラクターに少しほっとしました。
「ピクニック」 「花うた」 「愛を適量」は、淡々とした雰囲気がとても怖く生々しく、せつないです。。
『スモールワールズ刊行記念〈特別ショートストーリー〉「回転晩餐会」』もおすすめ。(kindle版で読了)
相手を想うがゆえに、余計な踏み込みをしない、そっと距離を保ちながら見守る。。その優しさ、やるせなさ、人生の理不尽さが胸に残ります。
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